大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和57年(行ウ)30号 判決 1983年2月09日

原告 市川幸雄 外一四名

被告 東京都知事

主文

1  本件訴えをいずれも却下する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告ら

1  被告が昭和五六年一二月二四日付け東京都告示第一三三八号をもつて公告した西新宿六丁目中央地区市街地再開発組合設立認可を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二請求原因

一  被告は、都市計画法一八条一項の規定に基づき、東京都新宿区西新宿六丁目地内を施行区域とする第一種市街地再開発事業の東京都市計画市街地再開発事業西新宿六丁目中央地区第一種市街地再開発事業(以下「本件事業」という。)に関する都市計画決定(以下「本件決定」という。)をし、昭和五五年一〇月一八日付け東京都告示第一〇八七号をもつて告示した。

次いで、被告は、都市再開発法一一条一項の規定に基づき、本件事業を施行する西新宿六丁目中央地区市街地再開発組合(以下「本件組合」という。)の設立認可(以下「本件認可」という。)をし、昭和五六年一二月二四日付け東京都告示第一三三八号をもつて公告した。

二  原告らは、いずれも、本件事業の施行地区の西側隣接地域に居住し又は土地・建物を所有している者である。

三  本件組合の定める事業計画は、次に述べる理由により違法である。

1  本件事業によつて建築される建築物(以下「本件建築物」という。)は、地上三九階、地下五階、高さが軒高一二三・七メートル(全体の高さは一三〇・一メートル)という超高層ビルであり、その敷地面積は約一〇・七〇〇平方メートル、建築面積は約六、六〇〇平方メートルで、建ぺい率は六三パーセントに達し、空地率はわずか三七パーセントに過ぎない。そのうえ、本件建築物は、その前面の南側において充分な日照を得る空間地を確保しながら、原告らが居住し又は土地・建物を所有している地域に接する西側においては、境界線ぎりぎり一杯に建築されることが予定されている。

このように、超高層ビルが異常に低過ぎる空地率で原告らの居住地等に極めて近接した位置に建築されるならば、原告らが日照について重大な被害を被ることは明白であり、更に、超高層ビル街に顕著に現われている風害、電波障害が一層強まることが充分に予測されるし、原告らに与える圧迫感が到底耐え難いものであろうことも明らかである。

2  本件建築物は、その利用計画によると、地上八階以上の部分がすべて私的営利事業であるホテル事業用に使用されるものであり、本件事業は、都市再開発法の目的の一つである土地の「健全な高度利用」(同法一条)に該当しないものである。

3  都市再開発法の目的とする「土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新」(同法一条)には、他の建築物への影響に対する配慮等、周辺の環境権保護も折り込まれているのであつて、周辺住民や建築物に対し日照、通風、電波機能、圧迫感等について甚大な生活侵害を与えないことが前提とされなければならない。しかるに、本件建築物は、その超高層構造、異常に低い空地率、不適切な建築位置からして、原告らに対して重大な生活侵害を殊更に及ぼすものであつて、これが「土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新」に資するものといえないことは明白である。

四  本件決定は、次に述べる理由により違法であり、その違法性は本件認可に承継されるものである。

1  都市計画法一六条一項は、都道府県知事等が都市計画の案を作成しようとする場合において必要があると認めるときは、公聴会の開催等住民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとすると規定しているが、この措置は都道府県知事等の全くの自由裁量に委ねられているものではなく、少なくとも本件のような大規模で、かつ、周辺住民の生活環境に重大な影響をもたらす都市計画については、右措置を講ずることが義務付けられていると解すべきである。ところが、本件では、都市計画の案を作成する段階において、公聴会の開催等住民の意見を反映させるために必要な措置が全く講ぜられていないのであるから、本件決定は、手続面において重大な瑕疵があり違法である。

2  第一種市街地再開発事業について都市計画に定めるべき施行区域は、市街地再開発促進区域内の土地の区域でない場合には、都市再開発法三条各号に掲げる条件に該当する土地の区域でなければならないにもかかわらず、本件事業の施行区域は、右条件に該当しないから、本件決定は同条に違反し違法である。

(一) 二号違反

本件事業の施行区域には、既に耐火建築物で地階を除く階数が三以上のものが多数を占めており、その建築面積の合計は、施行区域内にあるすべての建築物の建築面積の合計の三分の一を大きく超えている。

(二) 三号違反

本件事業の施行区域内の土地は、そのほとんどが東京都水道局(五〇パーセント)と東京医科大学(三〇パーセント)によつて所有され、かつ、現に使用されている状況にあるから、「当該区域内の土地の利用が細分されていること等により、当該区域内の土地の利用状況が著しく不健全であること」という条件に該当しない。

(三) 四号違反

本件建築物が、必要以上の超高層、異常に低い空地率、不適切な建築位置のもので、原告ら周辺住民に重大な生活侵害を及ぼすものであり、かつ、その主たる利用目的が特定業者の営利事業たるホテル事業用であること等からするならば、「当該区域内の土地の高度利用を図ることが、当該都市の機能の更新に貢献すること」という条件に該当しない。

3  市街地再開発事業に関する都市計画は、都市再開発法四条二項各号に規定する基準に従つて定められなければならないところ、本件事業に関する都市計画は右基準に従つて定められていないから、本件決定は同項に違反し違法である。

(一) 二号違反

本件建築物の建ぺい率は六三パーセントに達し、空地率はわずか三七パーセントに過ぎないため、充分なオープンスペースを確保することが到底できないものとなつており、「当該区域が、適正な配置及び規模の……公共施設を備えた良好な都市環境のものとなるように定めること」との基準に適合するものとはいえない。

(二) 三号違反

本件建築物は、異常に低い空地率、不適切な建築位置のため原告らに対して重大な生活侵害を与えること、そのほとんどが私的営利事業であるホテル事業用に使用されるものであること等の事実を総合すれば、本件事業に関する都市計画は同項三号の規定に違反するものである。

五  原告らは、本件事業の施行に伴い前記三の1に述べたような重大な日照被害、風害、電波障害、圧迫感等の環境阻害、生活侵害を被るものであり、ひいては隣接地域の土地に対する原告らの所有権ないし賃借権の財産的価値の低下による財産権の侵害をも被るものである。このような原告らは、以下に述べるような点を総合するならば、本件認可の取消しを求めるにつき、行政事件訴訟法九条にいう「法律上の利益を有する者」であり、原告適格がある。

1  本件において原告らが侵害される右の利益は、都市再開発法によつて法的に保護された利益である。すなわち、同法が目的とする「土地の健全な高度利用」(同法一条)とは、高度利用の態様が充分な公共施設を伴い、空間の有効利用を図るのに必要なだけの土地の共同化がなされ、他の建築物に日照、通風等に関する迷惑を及ぼさないだけの間隔が置かれ、利用者の憩いに利用できる施設、子供の遊び場、駐車場等に必要な有効空地が確保された形である状態を意味するとされている。実際の機能上も、市街地再開発事業は、当該施行区域のみに限られた単独の都市開発ではなく、周辺地域をも視野に入れた総合的計画として進められるものである。したがつて、原告らの生活環境上の利益と切り離した「土地の健全な高度利用」ということはありえないのであるから、原告らの右に述べたような利益は、本件許可の根拠法である都市再開発法の目的、各条文の全体の趣旨によつて保護された利益である。

2  都市計画法は広義の都市計画法体系の総則に当たり、都市再開発法は市街地再開発事業についての各則に相当するものであるから、同事業に対しては、総則である限りにおいて都市計画法の各規定が適用されることとなる。しかるに、都市計画法の目的は、「都市の健全な発展と秩序ある整備を図」る(同法一条)ことにあり、都市計画の基本理念の一つは、「健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと」(同法二条)であり、「都市計画は、当該都市の住民が健康で文化的な都市生活を享受することができるように、住宅の建設及び居住環境の整備に関する計画を定めなければならない」(同法一三条二項)こととなつているから、原告らの前記利益は、本件認可の根拠法の目的及び要件法規によつて保護された利益ということができる。

3  都市再開発法一六条二項の規定によれば、同条一項の規定により縦覧に供された事業計画について意見書を提出することができるのは、「市街地再開発事業に関係のある土地又はその土地に定着する物件について権利を有する者」(関係権利者)に限られているところ、右にいう「関係のある土地」とは、施行地区内の土地に限定されず、施行地区に隣接した土地を含むものであり、現に、原告らは昭和五六年一一月二七日付けで被告に対して関係権利者として意見書を提出している。このように、原告らの前記利益は、本件認可の根拠法である都市再開発法上の手続要件法規によつても保護されている。

4  周辺住民の健康で文化的な生活環境を維持する権利は、憲法二五条の生存権、憲法一三条の生命、自由、幸福追求権の保障として保護された利益である。

5  原告らの前記利益は、個別的かつ具体的に保護されているものである。すなわち、周辺地域の生活環境上の利益も結局は原告ら周辺住民の個別的、具体的な利益の集積によつて成り立つものであり、このように各個人の利益の集積であるものやそれに還元できるものについては、個人的利益を保護しているものと解さなければ妥当性を欠く。そうでないと、少数の個人的利益を保護している場合は、個人の法的利益を認めることになるが、多数の人の利益を保護している場合は、単なる公益の保護として個人の法的利益が否定されるという全く奇妙な結論をもたらすことになるからである。

6  原告ら周辺住民の生活環境上の利益が現実に侵害されるのは市街地再開発事業が施行されてからであるものの、組合設立認可により、その事業計画の下での事業の施行が確定し、かつ、差し迫つた一定期間後に侵害の生ずることが確実となるものであるから、組合設立認可及びそれに伴う事業計画の設定の段階に至るならば、原告ら周辺住民が将来生活環境上の不利益を受けることが確実に予想されることとなる。しかるに、住環境の悪化による生存権等の侵害は一たん行われると原状回復が極めて困難で取り返しのつかないものになるから、その蓋然性が強い場合には、生活環境に対する侵害が現実に具体化する前に、環境破壊に対する予防又は排除の必要があり、したがつて、その点で具体的事件性が肯定されるのである。この点からして、組合設立認可の段階で争訟可能性を認めるのが訴訟救済の機能と目的に適うものである。

六  よつて、原告らは、本件認可の取消しを求める。

第三被告の本案前の主張

本件訴えは、以下に述べるとおり行政事件訴訟法第九条にいう「法律上の利益」を欠くもので不適法である。

一  右の「法律上の利益」は、法的に保護された個別的かつ具体的な利益と解されており、そして、それは個々具体的な実定法規の解釈によつて定まるとされている。そこで、原告らの主張する利益が法的に保護された利益か否かを検討すると、市街地再開発組合設立に関する都市再開発法一一条ないし一九条の各規定、事業計画の内容に関する(同法一二条において準用する)同法七条の一一の規定並びに同条の委任命令である同法施行規則四条、五条及び七条の各規定には、第一種市街地再開発事業の施行地区の隣接地域に居住し又は土地・建物を所有している者(以下「周辺住民」という。)に対する原告ら主張のような日照、通風等の生活環境上の利益を保護することを目的とするものが何ら含まれていない。したがつて、原告ら主張の生活環境上の利益は、実定法規が直接保護しようとしている利益とはいえない。

二  原告らが主張の根拠とする都市再開発法一条並びに都市計画法一条、二条及び一三条二項の各規定は、その記載文言から明らかなように、都市計画及び都市再開発の目的と基本理念について述べているものであつて、周辺住民の日照、通風等の生活環境上の利益を個別的かつ具体的に保護するものではない。

三  また、原告らが主張の根拠とする都市再開発法一六条の規定の趣旨は、都道府県知事に組合の設立を監督させることによつて組合を設立しようとする者が恣意的に事業計画を定めることを防止するとともに、関係権利者の意見を反映させて事業計画そのものをより適切妥当なものにして公共の福祉を増進させることにあり、いわば、住民の行政参加の一環として、当該地域の実情に関しその意見を聴取するに最もふさわしい立場にあると認められる関係権利者を手続に関与せしめ、住民の行政手続への参加により、行政の正当性を担保しようとすることにあるのであつて、直接関係権利者の個人的な権利利益を保護することにあるものではない。

四  更に、「法律上の利益」を有する者は、行政処分によつて具体的な権利義務の変動を受ける者でなければならないと解されているところ、本件許可は、組合を成立せしめ、かつ、組合の成立又は定款若しくは事業計画を組合員等に対抗せしめるだけであつて、周辺住民の具体的な権利義務に変動を生ぜしめるものではない。また、設立許可の際審査される事業計画も、市街地再開発事業の基礎的事項について一般的、抽象的に定められたものであつて、いわば、建築工事における青写真的な役割を果たすものであり、周辺住民の日照、通風等の生活環境に直接具体的な変動を生ずる効果があるものでない。してみれば、本件認可があつただけでは、原告らはいまだその具体的な権利義務の変動を受けていないから、本件認可の取消しを求める法律上の利益を有しないといわなければならない。

五  なお、原告らが居住し又は土地・建物を所有している地域は、都市計画法八条一項一号に定める商業地域である。また、本件事業の施行地区は、都市計画法八条一項三号に定める高度利用地区である(都市再開発法三条一号)。

ところで、右商業地域は、建築基準法上いわゆる日影規制が及ばない地域となつている(同法五六条の二第一項)。また、右高度利用地区は、建築物の容積率と建築面積の最低限度を定めることにより土地の高度利用を図ろうとするものであり(都市計画法九条一一項)、建築物の中高層化が要請されている地区である。建築物の中高層化を要請する以上、それに伴う相当な日照阻害等は許容する趣旨と解される。

したがつて、原告らは、この限りにおいてその利益の侵害を主張できないものといわなければならない。

ちなみに、原告らが居住し又は土地・建物を所有している地域も、本件事業の施行地区と同様高度利用地区に指定されたうえ(昭和四九年三月一一日告示)、既に市街地再開発事業施行区域として都市計画決定(同月二二日告示)がなされているところである(いわゆる超高層建築物の建設が予定されている)。

第四請求原因に対する認否

一  請求原因一及び二の事実は認める。

二  請求原因三の1のうち、本件建築物の高さが軒高一二三・七メートル(全体の高さは一三〇・一メートル)であること、その敷地面積が約一〇、七〇〇平方メートル、建築面積が約六、六〇〇平方メートルで、建ぺい率が六三パーセント、空地率が三七パーセントであること、本件建築物の前面に空間地があること、本件建築物の建築によつて風が部分的に強まることは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。本件建築物は地上三八階、地下四階であり、その前面は東向きで、前面の空間地は日照確保を目的とするものではない。また、本件建築物の外壁は西側境界線から五メートル離れている。更に、新宿副都心地区の超高層ビルの建ぺい率は京王プラザ九〇・二パーセント、小田急センチユリ八六・五パーセント、新宿三井ビル六六・四パーセント等で、本件建築物の建ぺい率が異常に高いということはない。

同2の事実は認める(ただし、本件建築物のうちホテル事業用に使用されるのは約六〇パーセントである。)が、主張は争う。

同3の主張は争う。

三  請求原因四の冒頭の主張は争う。

同1のうち、本件では公聴会を開催しなかつたことは認めるが、住民の意見を反映させるために必要な措置が全く講ぜられていないとの事実は否認し、その主張は争う。

同2の冒頭の本件事業の施行区域が都市再開発法三条各号に掲げる条件に該当しないとの主張は争う。同2の(一)の事実は否認する。本件事業の施行地区の耐火率は一九・二パーセントである。同2の(二)のうち、本件建築物の敷地部分のほとんどが東京都水道局(ただし、約四六・三二パーセント)と東京医科大学(ただし、約三七・三四パーセント)によつて所有され、かつ、現に使用されていることは認めるが、その主張は争う。同2の(三)の主張は争う。

同3の主張は争う。

四  請求原因五の主張は争う。ただし、同3のうち、「関係のある土地」とは、施行地区内の土地に限定されず、右土地に隣接した土地を含むことは認める。

第五証拠関係<省略>

理由

一  請求原因一及び二の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、まず、原告らが本件認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するかどうかについて判断する。

1  市街地再開発組合の設立認可(都市再開発法一一条一項)は、特定の市街地再開発組合の設立行為を補充して法人たる市街地再開発組合を成立せしめ(同法八条一項、一八条)、これに一定の土地について第一種市街地再開発事業を施行する権限を与えるものであり、組合が成立すると、施行地区内の宅地について所有権又は借地権を有する者はすべて当然にその組合の組合員たる地位を取得し(同法二〇条一項)、組合員は都市再開発法に規定する各種の権利義務を有するに至るのであり、更に、都道府県知事による同法一九条一項の公告があると、組合の成立又は定款若しくは事業計画をもつて組合員その他の第三者に対抗することができるようになり(同条二項)、施行地区内において第一種市街地再開発事業の施行の障害となるおそれがある土地の形質の変更、建築物その他の工作物の新築、改築又は増築等を行おうとする者は都道府県知事の許可を受けなければならないこととなる(同法六六条一項)が、右認可及び公告がなされても、施行地区の隣接地域に居住し又は土地・建物を所有している者(周辺住民)の法律上の地位ないし権利義務に何ら変動を生ぜしめるものではない。したがつて、周辺住民は、右認可の取消しによりその公定力の排除を求むべき法律上の利益を有しないというべきである。

2  しかるところ、原告らは、本件事業の施行に伴い、重大な日照被害、風害、電波障害、圧迫感等の環境阻害、生活侵害を被り、ひいては所有権ないし賃借権の価値の低下による財産権の侵害をも被るのであるから、これらの生活環境上の利益侵害の予防・回復のため、原告らには本件認可の取消しを求むべき法律上の利益が存すると主張する。

行政事件訴訟法九条にいう「法律上の利益」とは、法律上保護された利益をいうもので、それは、当該行政処分の根拠となつた行政法規が当該行政処分の取消しを求める者の利益を個別的、具体的に保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保障されている利益をいうものであり、これを本件に即していえば、原告らが本件認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するかどうかは、本件認可の根拠となつた行政法規が原告らの主張するような生活環境上の利益を原告ら周辺住民に対し個別的、具体的な利益として保護しているかどうかによつて決せられることとなる。

しかしながら、市街地再開発組合の設立認可の要件について規定する都市再開発法一七条、事業計画の内容について規定する同法一二条及び七条の一一並びに同条の委任命令である同法施行規則四条ないし八条、更には、第一種市街地再開発事業に関する都市計画について規定する都市計画法一二条二項、一三条一項五号及び二項並びに都市再開発法三条、四条等の関係法令上の各規定を仔細に検討しても、市街地再開発組合の設立認可の許否、更には第一種市街地再開発事業に関する都市計画の決定について、周辺住民の生活環境上の利益を個別的、具体的に保護することを目的として都道府県知事の権限行使に制約を課していると解しうる規定を見い出すことはできない。

3  原告らは、都市再開発法一条並びに都市計画法一条、二条及び一三条二項の各規定を根拠に、原告らが本件認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有すると主張する。

しかしながら、右各規定は、都市再開発及び都市計画の目的及び基本理念について一般的、抽象的に規定したものに過ぎず、右各規定をもつて周辺住民の生活環境上の利益を個別的、具体的に保護したものと解することはできない。

4  原告らは、原告らの生活環境上の利益は本件認可の手続要件法規である都市再開発法一六条二項の規定によつても保護されていると主張する。

しかしながら、右規定が一定の者に意見書を提出する機会を認めた趣旨は、市街地再開発組合を設立しようとする者が定めた事業計画について当該地域の実情に関しその意見を聴取するにふさわしい立場にあると認められる者に書面で意見を申し出る機会を与えることにより、都道府県知事の監督権の発動を促す途を開き、かつ、右の者の意見を当該事業計画に反映させる契機を作り、もつて事業計画の内容をより適切妥当なものにしようというにある。すなわち、右規定は、都市計画の決定手続における公聴会の開催等に関する規定と同様に、住民の行政参加の一環として関係権利者に市街地再開発事業に対する意見書提出の機会を与えることにより、行政の正当性を担保しようというものであつて、周辺住民の生活環境上の利益を個別的、具体的に保護したものと解することはできない。

5  原告らは、憲法一三条、二五条を根拠に、周辺住民の健康で文化的な生活環境を維持する権利は法律上保護された利益であると主張する。

しかしながら、原告ら主張の生活環境上の利益が、憲法の右規定により実定法上の権利として認められるかどうかは別として、右利益は、行政処分たる本件認可により直接変動を受けるものではなく、また、本件認可の根拠法規たる行政法規により個別的、具体的に保護されたものでもない。換言すれば、原告らが、本件認可の公定力により生活環境上の利益に制限を受け、あるいは、生活環境上の利益につき行政法規により受けるべき保護を否定されたという関係にはないから、右の生活環境上の利益をもつて本件認可の取消しを求むべき法律上の利益ないし右取消しにより回復すべき法律上の利益ということができないのである。

6  以上の次第で、原告らが主張する生活環境上の利益をもつて本件認可の取消しを求むべき法律上の利益ということができず、したがつて、原告らが本件認可の取消しを求めるにつき原告適格を有するものと認めることはできない。

三  よつて、本件訴えは、その余の点について判断するまでもなくいずれも不適法であるから、すべてこれを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 泉徳治 大藤敏 杉山正己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例